地域を守る。
地域を診る。

北海道家庭医療学センターの診療所がある街。
そこには、地域を守ってくれる人たちがいるからこそ、
私たちは診ていくことができています。
「地域を守る。地域を診る。」は、同じ方向を向いて、
同じ気持ちで地域と向き合っている人にお話をお聞きする、連載リレーです。

第2回 上川町 佐藤芳治 町長

上川町 佐藤芳治 町長

1949年遠軽町生まれ。
1967年上川町役場に入職し、2008年上川町長に就任し現在に至る。

HCFM医師の「地域医療への思い」との邂逅がくれた感激。

地方の市町村において、医師の確保は大きな問題です。ここ、上川町においても例外ではありませんでした。国民健康保険上川医療センターの前身である、上川町立病院を開設したのは1989年のこと。以来、慢性的な赤字と医師確保には常に苦慮しておりました。

町では私の助役時代に医療改革プロジェクトチームを発足させ、さまざまな問題解決策を探ってきました。
そんななかで北海道家庭医療学センターについて知ったのは、町長就任直後でした。「キャリアの一環として一定期間、地方で経験を積む」という意識ではなく、地域医療そのものを生涯の志とする医師の存在は、私たちにとってどれほど尊く素晴らしい、輝いたものに見えたことか。センターの先生方の心構え、地域医療への思いを知るにつれ、どんな困難を乗り越えてでもぜひ上川町に来ていただきたいとの思いが高まりました。

上川町 佐藤芳治 町長

「何がどう違うのか、変わるのか」の説明からスタート。

そのために、まず取り組んだのは町民の理解を得ることです。各地で説明会を開きましたが、どこへ行っても聞かされるのは「総合診療医の先生が来ると何がどう変わるのかが、分からない」という声。確かにそれまで「専門医である医師」にしか会ったことがなく、「医師=専門医」という常識を疑いなく持ってきた町民の皆さんにとっては、もっともな疑問だったかと思います。

そのたびに私は「家庭環境も含めて患者一人ひとりに正面から向き合うのが総合診療医(家庭医)。今はうまく理解していただけないかもしれないけれど、でもこれからの地域医療を考えると、総合診療医の先生に来ていただくのがベストである。新しい体制がスタートすれば、必ず分かってもらえるはず」と説明し続けました。もちろん、私にとってもそれはすでに揺らがぬ信念でありましたから。

上川町 佐藤芳治 町長医療への安心がもたらすものの、予想をはるかに超えた大きさ。

結果、2009年に北海道家庭医療学センターから安藤高志先生(現・院長)を含む3名の先生が着任し、国民健康保険上川医療センターがスタートしました。同時に、町立病院時代91床だった入院施設を19床と規模縮小して診療所体制とし、その代わりに介護施設を併設しました。先生方の評判は当初から上々で「患者の顔を見て、しっかりと話を聞いてくれる」という信頼と喜びの声が早い時期から町民の間で上がりました。
移管前の説明会で「よさは必ず分かってもらえる」と言った私の言葉が正しかったと早々に証明でき、胸をなでおろしたものです。

私自身も3カ月に1回は受診をしております。よく「医者は言葉にはじまり、言葉に終わる」と言われます。その言葉通りに患者、家族の話を聞いてくれることから診療が始まり、パソコンばかりをのぞき込むのでなく、相手の顔をしっかりと見てうなずいてくれる先生方の姿勢がどれだけ患者、家族に安心感を与えるかは、予想を大きく超えるものがあります。連携開始から2019年で10年。このような医療は間違いなく、今後も求められていくものなのです。我々の課題は、総合診療医の先生方がどうすればより力を発揮できるかを考え続けること。さらには、北海道家庭医療学センターがより拡充していくために何ができるかを共に追求し、協力していくことも重要だと考えています。道内町村からの視察・問い合わせも絶えずあります。地域医療を守るためにひとつのモデルケースとして、上川町での事例がもっともっと広まってくれればと願ってやみません。

医療の安心と安全を守る行政施策は、まちづくりそのもので、重要な基盤となるものです。医療が充実されれば、消防、防災、福祉などあらゆる住民サービスに広くつながっていくものと考えます。私は旭川市を中心にした広域の消防体制の確立にも取り組んできました。医療は行政全般に影響をもつ、広範な安全施策なのです。


大雪山の懐に抱かれ、若者が熱く地域を盛り上げるこの町で。

ところで、わが町・上川町は、大雪山国立公園の北部に位置し、日本一早く日本一美しい紅葉が町の自慢のひとつです。町内には層雲峡温泉があり国内外から毎年多くの観光客が訪れるほか、大雪高原牛をはじめとする畜産、酪農、農業も盛ん。スキージャンプの髙梨沙羅選手、原田雅彦元選手を輩出した町でもあります。

近年目立っているのは、官民問わずに若い世代が活発に活動し地域発信に取り組む姿です。2018年に、上川町を中心とする2市10町が「カムイと共に生きる上川アイヌ~大雪山のふところに伝承される神々の世界」として日本遺産に認定されたのも、若い町職員らが自発的に活動・奔走したことが大きく結果につながっています。町と町内企業である上川大雪酒造、さらに新潟県のアウトドアブランドスノーピークとの三者で、観光振興や地域活性化に関する包括連携協定が締結されたこともまた大きな弾みになっています。

大雪山はアイヌ語でカムイミンタラ、神々の遊ぶ庭と呼ばれます。
大雪山の懐に抱かれた美しいこの町で、これからの時代にふさわしい地域医療の形を創り上げていきたいと思います。

PA GE TOP