修了生インタビュー

 

三島 千明 さん
専門研修修了/勤務医
医療法人社団 DEN みいクリニック代々木 院長
HCFM在籍期間/2013〜16年(後期研修 3年間)
島根県出身。島根大学医学部卒業後、島根大学医学部附属病院にて初期研修。2013年より北海道家庭医療学センターにて後期研修。修了後、在宅医療中心の診療所勤務を経て、2021年4月みいクリニック代々木の院長に就任。一般社団法人ウェルネス.M代表理事。昭和医療技術専門学校特任教授。自治医科大学医学部客員研究員。
同じ志を持つ仲間たちと、笑顔で研修を!
医学生の時にカナダで病院実習に参加した際に家庭医療(family medicine)という分野を知りました。臓器に細分化された医療ではなく、健康な頃から継続して寄り添うことや、家族・コミュニティといった広い視点でかかわることにとても興味を持ちました。初期研修医時代にはアメリカで様々な家庭医の診療にふれて、さらに興味を持ちました。
けれども当時、国内には今ほど身近に家庭医療の研修プログラムがなかったし、実際、周囲に家庭医療専門医を取得した先輩もいませんでした。「家庭医で医師としてキャリアを築いていけるのだろうか」という将来に対する不安もありました。
北海道家庭医療学センターの見学に来たのはちょうどそんなタイミングでした。見学が終わって島根に帰るその日、札幌駅のスターバックスで草場先生に正直にその気持ちを打ち明けました。すると草場先生は「ここには仲間もいますから。笑って研修しようね」と穏やかにおっしゃったんです。その瞬間に目の前の霧がパッと晴れていくのが分かりました。不安が大きかったので、「笑顔で研修できる環境や仲間がいるのだ」と、とても心強く、ほっとしたことを覚えています。
3年間を思い返すと、濃密という言葉がぴったり当てはまります。1年目の上川医療センターでは、レジデントの私一人に対して安藤院長(当時)をはじめ指導医が3人も常駐するという今考えても贅沢すぎる指導体制で、毎日の振り返りの時間は3人の指導医それぞれからコメントや質問が飛ぶので毎回必死。相当、臨床能力や家庭医としての心構えを鍛えていただきました。
指導医の先生方からは「たくさんの患者さんを診なくてもいいから、一人ひとりの患者さんに時間をかけて診療してください」と声を掛けていただき、先生方のサポートを受けながら、診療に追われることなく、研修に集中させてもらえたことはとてもありがたかったです。
研修以外の活動にも理解を示してくださいました。私は、世界医師会のJDN(Junior Doctors Network)という若手医師の国際組織で役員を務めていたことから、年に数回海外で国際会議に参加する必要があったのですが、そうしたときにも快く送り出してくださいましたし、たくさんのアドバイスもくださいました。海外の医療にも関心を持ちましたので、オランダやブラジルなど自主的な研修に出かけた際にもサポートしてくださいました。HCFMはレジデント一人ひとりのオーダーに対して、組織全体で親身に相談に乗ってくださるプログラムだったという印象が強くあります。
これまで住んでいた地域とは気候風土や文化の異なる北海道での暮らしには戸惑う場面も多く、悩むときもありましたが、同期のレジデントと励ましあったり、メンターの松井先生にはいつも親身に相談に乗っていただきました。そうした周囲の支えもあって、本当に楽しく3年間勉強させていただきました。
医療の世界を広げる種まき。
修了後は北海道に残ることも選択肢として考えましたが、もっといろいろな世界を知りたい、北海道の先生たちから教わった家庭医のマインドを胸にさまざまなことに挑戦したいという気持ちが勝り、北海道を出ることに決めました。その際も本当に快く温かく送り出してくださいました。その後、横浜の診療所で3年間ほど都市型の在宅医療の経験を積みました。その間に企業や自治体へのコンサルティングの仕事もさせてもらうようになりました。政府の「医師の働き方改革に関する検討委員会」の構成員になり、広い視点からプライマリケアや働き方の在り方、特に女性医師を含めたチーム医療の在り方を考える機会になりました。
2021年4月からは、縁あって現在の「みいクリニック代々木」で、新米院長として四苦八苦しながら診療やマネージメント業務に当たっています。ここはJR山手線の代々木駅すぐの立地で、まさに都市型の診療所であり、一般外来から在宅医療、健康診断等を行っています。開院時から非常勤医師として勤務していて5年がたち、少しずつ患者さんとの継続性も感じられるようになってきました。新型コロナウイルスの感染拡大を機に発熱外来とオンライン診療もスタートしました。さらには地域の学校医や園医、企業の産業医といったことも少しずつ広げています。地域のニーズを考え、必要な医療を提供できるよう取り組んでいるところです。
また、システム会社とタッグを組んでオンライン診療のためのデバイスやアプリの開発に携わったり、ヘルスケア企業に現場の意見を伝えるといった連携事業も行っています。医療の現場では多職種連携の重要性が叫ばれていますが、医療・福祉の業界を越えた「多業種連携」とも呼ぶべき連携の中から新しい何かを作り出すのは、とても楽しい経験です。
このほか、奄美大島を拠点にボランティアで対面とオンラインでの健康相談を行ったり、まちづくりに取り組む企業と連携して、医療従事者を対象にしたウェルネス・ワーケーションの商品開発にも携わっています。日々の業務で疲れた医師が奄美大島でバケーションを取りながら、地元住民の健康相談に乗るといった社会活動を実践するプログラムで、旅と医療とまちづくりをつなぐ取組みです。このようにさまざまな角度から医療の世界を広げる新しい形づくりができたらいいなと思い、今はいろんなところで種まきをしている段階です。
診療所の診療を行いながら、時に医療の枠を飛び越えて多方面に地域社会に携わることができるのが、人々の生活や地域社会に近い、プライマリ・ケアにかかわる医師のまさに醍醐味だと日々実感しています。
働き方も、あなた次第。
一般外来診療や在宅診療はもとより、産業保健や地域での予防医療といった場面でも、地域に密着し、何でも相談できる身近な医師の存在は、今後ますます必要とされていきます。家庭医になる前は将来に対する不安を抱えた時期もありましたが、医局に所属しなくても、自分が興味を持って様々なことにチャレンジする中でたくさんのご縁が生まれ、現在まで医師としてやりがいをもって診療することができています。仕事を通じたつながりの中で、できることがますます広がっていると感じます。
働き方の多様性は、家庭医の大きなメリットだと思います。当院はグループプラクティスをしているため、私のようにクリニックに勤務しながら他業種の企業と仕事をしたり、その他にも教育や研究、ボランティア活動など、比較的いろいろなことを組み合わせながら働くことも可能です。
たとえば週3日は家庭医として勤務しながら、2日間は研究活動に時間を費やすという働き方もできるでしょう。海外でも様々な働き方の家庭医がいて、子育てをしながら家庭と仕事の両立を図る家庭医も多くいます。おすすめの領域です。プライマリ・ケアに興味のある方は、ぜひこの世界に飛び込んでみてください。
※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)
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