COVID-19と家庭医

宮地 純一郎

浅井東診療所 副所長



「研究テーマとしての新型コロナウイルス」

新型コロナウイルスの流行は、風邪や肺炎の意味を大きく書き換えたひとつの事例だと理解しています。たとえば感染対策においては、「感染対策を促すこと」と「感染対策によって壊れるものをいかに壊さないようにするか」のせめぎ合いがベースにあります。臨床医として個人や地域に関わる立場としては、感染拡大を防ごうと対策を強化するあまり、それをやり過ぎて人の生き方の多様性までも奪うような旗振りを医療がしてしまうことのないように、僕らは注意しなければなりません。社会を見回せばいたるところで新型コロナウイルスの感染拡大と生活が絡まりあっています。そこに巻き込まれながら、バランス感覚をもって対応していくことが、僕ら家庭医の大事な仕事だと思っています。

片や研究者としてこのウイルスを見る場合に、家庭医が取りうるアプローチは、二つあると考えています。一つは「新型コロナウイルスそのものを調査する」こと、もう一つは「新型コロナウイルスを通して調査する」ことです。前者は、プライマリ・ケアに与える影響を疫学や心理学などの学問における手法を参考にしながら、さまざまな角度から調べる研究です。それに対して後者は、これまで顕在化していなかった社会構造の歪さや問題点、あるいは価値観の相違、それによって起きる分断など、コロナへの対応を通して炙り出されてくることを探る調査であり、人類学や社会学のような社会科学の視点が色濃い研究になろうかと思います。人類学の目線からは、平時には見えない社会の姿が、暗黙の前提が脅かされて初めて明らかになるという考え方があります。新型コロナウイルスは、まさにこの暗黙知を脅かすような投げかけだとみなせます。それが具体的にプライマリ・ケアの何を明らかにできるのかはまだわかりませんが、何かしら大きな契機になると感じています。

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