HCFM 座談会

『 医師であり母。女性医師と家庭医療の現場 』

「医師に代わりはいても、母にはいない」
女性医師が働きやすい家庭医療の現場とは

家庭医療というと、常に患者に寄り添い、出産・育児も考えている女性医師にはハード。もしもそんなイメージをお持ちなら、北海道家庭医療学センターの現場を知った後では認識が覆ることでしょう。今回は、研修医時代からHCFMに所属し、更別診療所で育児と仕事を両立させている棟方智子先生(医師14年目)と安達ひろむ先生(後期研修2年目)にお話を伺いました。

参加メンバー

棟方智子/更別村国民健康保険診療所 指導医
安達ひろむ/本輪西ファミリークリニック 研修医
※2018年6月時点の所属

後期研修中の出産にも手厚くカバー

棟 方

わたしは大学5年生の時、北海道家庭医療学センターでの短期実習で家庭医療が患者や地域を大局的に見られる分野だと思い、そこに魅力を感じて今に至ります。後期研修2年目で出産しました。安達先生も、わたしと同じ後期研修中に出産してますよね。

安 達

はい。後期研修1年目で出産しました。ただ、家庭医療を志した時期は、初期研修2年目でかなり遅いです。
当時、麻酔科や救急科などの専攻を考えていたのですが、私としては家族との時間を大事にしたいとも考えてました。いろいろと検討した結果、北海道家庭医療学センターでならやりがいをもって仕事をしながら、家庭も大事にできるように配慮してもらえると感じ、家庭医療の道に進むことを決めました。

棟 方

実際に出産・育児をしてみて、いかがでしょう?

安 達

他の先生方3人がカバーしてくださるのが、本当に助かっています。当直も、上長に相談しながらHCFM内で調整してくれますし、休日はグループの他施設からも来てくれます。なによりも、棟方先生のような仕事・育児の先輩がアドバイスしてくれますし、気にかけてくださる周囲の方々の存在が嬉しいです。

棟 方

ここは子育てと仕事が両立しやすい環境だと、わたしも感じています。それに、もともと勉強するための環境も整っているので、専門医の取得も心配しないでいいのもここの特徴ではないでしょうか。

安 達

そうですね。所長の山田先生は、わたしのプライベートに気を掛けつつ指導してくださっていて、おかげで専門医取得に必要な自己学習や成長を記録する上で必要な症例は計画的に立てて集めています。それから、指導医とは別に、自由に相談できるメンターの先生も付けてもらっているので安心です。

産休育休明けの復帰前後
良い誤算、悪い誤算

安 達

今回、女性医師の働き方がテーマなので……棟方先生は、出産・育児でどの時期が大変でしたか?わたしは産休育休を終えて復帰する直前がすごく不安でした。このまま復帰しないでもいいんじゃないかと考えたりして……。

棟 方

わたしは復帰直後が大変で、ショックも受けました。子育て中は話す相手がめっきり減ってしまうから、想像以上に外来でしどろもどろになって……満足に患者さんとの話し合いができなくなるとは思っていなかったので、子育てにはこういう影響もあるのかと実感しましたね。あとは、子どもがいきなり発熱したりして、「フルタイムは意外とできないぞ!」と誤算にも気付きました。

安 達

わかります。棟方先生はどうやって対処しましたか?

棟 方

診療は慣れて勘を戻すしかありませんが、山田先生が日々の振り返りだけでなく、働き方についても相談できるようと定期的に面談をしてくれたのが良かったと思います。診療所でのことや家庭でのことを聞いてくれて、そこで「では、時間は早く帰るようにしましょう」といったように状況に応じた調整をしてくれたんですね。周りのサポートがあった上での話ですが、やってみたら案外できるもんです。

安 達

おっしゃる通りですね。わたしは産休育休で1年間、子どもとべったりだったのですが、職場復帰してからは生活にメリハリがでましたね。復帰前は不安でしたが、限られた時間の中でもやるべきことをこなしているので、自分でも意外なほどイキイキと生活できていると感じますね。

それに、所長の山田康介先生をはじめ、皆さんが「早く家に帰ってお母さんとしての仕事をしてくださいね」と言ってくれるから、診療所での仕事を切り上げるという罪悪感が少ない。周りの理解が嬉しいです。

棟 方

医者の仕事の代わりはできますけど、母親の代わりはいないですからね。医師不足になっても不思議でない更別村でそう言えるのも、HCFMの人材育成の体制が整っているからでしょう。どこでも対応できる医師を育てているから、お任せしやすい。何より、同じ価値観で診療にあたっている安心感があります。

安 達

普段から主治医制ではなく、グループで状況を共有しながら診療にあたるグループ診療であることも大きいですね。引き継ぎが少なくて済むし、患者さんや連携先の介護職の方々などからも理解されている。

母として医師として、地域の一員に

安 達

ここでは、職場だけではなく、地域の温かさも感じます。ママさん仲間20~30人とは悩みを共有できますし、地域柄なのか、以前いた都会よりも助けてくださることが多い。行政も、更別村長が小学校の校長先生だったこともあって、保育料助成など育児・教育政策に熱心です。

棟 方

ここでは、更別の人たちとともに生きているという実感がありますね。学校健診に行けば、子どもたちから「なんで◯◯くんのお母さんがいるの?」と聞かれますし、仕事中に子どもの習い事があれば、近所の父母やおじいちゃん、おばあちゃんが送ってくれて「◯◯くん、頑張ってたよ」と言ってくれます。育児をする以上、諦めざるを得ないキャリアもあります。でも、こうして地域で暮らし、その地域に溶け込んで仕事をすることで、楽しみが増えてきましたね。今こうした環境で思うことは、子どもを産みたいと考えている女性医師は、キャリアの遅れなどを恐れず、出産を優先してもらった方が医師としても見えてくるものがあるだろうということです。

安 達

そうですね。母親になり地域との交流が増えたからこそ、いろいろな家庭の背景などを理解できるようになると思いますね。トライ&エラーの連続ですが、やってみるとうまくいくものだなと感じます。わたしは今、子どもが第一優先ですが、医師としても“どこに行っても通用する家庭医”になれるよう頑張ります。とにかく、まずはやってみないことには始まりませんよね。
(2018年6月)
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