HCFM 座談会

『 転科 -家庭医療に飛び込んだ理由- 』

わたしたちが家庭医療に“飛び込んだ”わけ

年代・診療科を異にするさまざまな医師たちが集う家庭医療。彼らはなぜ家庭医療を学ぼうとし、学びの場に北海道家庭医療学センターを選んだのでしょうか。そして、何を得たのでしょうか。松井善典先生(関西家庭医療学センター プログラム責任者/浅井東診療所 所長)の司会の下、HCFMの現・勤務医や“OB”にお話を伺いました。

参加メンバー

松井善典/浅井東診療所所⻑、指導医
和田靖(和田先生)/外科医として経験を重ね、HCFMには黎明期に在籍
柏﨑元皓/関西家庭医療学センター 専攻医。元々の専門は小児科
田上英毅(田上先生)/泌尿器科の専門医として働きながら、HCFMグループで家庭医療を学ぶ
※2018年3月 取材当時

家庭医療に“飛び込む”ということ

松 井

今日集まっていただいた先生方は、異なる形でHCFMに関わっていただいています。和田靖先生はHCFM黎明期に2年間在籍し、田上英毅先生はHCFM在籍の経験はありませんが、HCFMのオンライン勉強会への参加などを通じてご縁があります。最後に、柏﨑元皓先生は小児科専門医を取得したあとHCFMに参画いただき、ちょうど関西家庭医療学プログラムを今年3月に修了したところですね。

―まず皆さんは、どういった経緯で家庭医療を学ぼうと考えたのでしょうか。

和田先生

わたしは外科を10年ほど経験した頃、病院だけで患者を診ていていいのか疑問に感じ始めました。その後、紆余曲折を経て、家庭医療を学ぶためにHCFMへ入職するご縁がありました。当時、家庭医療を学べる場が国内にほとんどなかったのが理由です。

もう一つの理由は、病院の勤務医時代に受け取った、HCFMの若手医師からの紹介状です。それがとても立派な内容で、患者の情報や初見などが理路整然と書かれていたことも心に残っていました。

柏 﨑

わたしが家庭医療に入ったのも、病院での医療に『何か違う』と思ったのがきっかけです。わたしの専門である小児科では、生育環境に由来して問題行動を起こすお子さんがいると、どうしても病棟だけでは対応し切れなかったんですね。そんな壁にぶつかっていたとき、「そういえば、小学生のころから“山奥で患者に信頼されるような医師”になりたいと夢見ていたな」と思い出しました。

ただ、家庭医療に転向することについて、先輩や同期からは「やめておけ」と言われましたね。今思うのは、家庭医療に触れたことで視野が広がりましたし、転向して間違ってなかったと感じてますね。

田上先生

皆さん似ていますね。病院の外での患者を知らないことには、わたしも疑問に感じました。わたしはずっと大学医局に所属して、急性期で泌尿器科を専門にしてきました。臓器別での治療スキルを高めることに行き詰まりを感じ始めて、HCFMに関わらせてもらいました。診療所の立ち上げもお手伝いさせてもらい、今までのわだかまりがスッキリしてきたのを覚えています。

診療所でのグループ診療という働き方

松 井

HCFMでの診療スタイルはいかがでしょうか。

和田先生

まずスタッフ間にNo-Blame Cultureの文化があり、みんなで解決しようという風土が良いです。

田上先生

そうですね。みんなで解決しようという風土もそうですが、医師を含めスタッフにもよく勉強している方が多く、彼ら彼女らに刺激を受けることも多いです。信頼できるスタッフがいることで、わたしはまっさらな気持ちで家庭医療に臨むことができました。

和田先生

気持ちも新たに1年目として学ぶ姿勢は大事ですね。とはいえ、元々の専門性が活かせる場面もありますし、アドバイスを求めてもらえる機会もあって、そのときはこれまでやってきたことも意味があったと感じますし、なんだか嬉しくなりますね。

柏 﨑

それは私も感じます。病院の小児科で専門的に学んできたことは、家庭医療でも活かせています。それと、家庭医療から見た小児科は、病院とはやはり違って、以前よりも家族とのかかわりが増えました。小さい頃に夢見た医師像に近づいたと感じます。

和田先生

じっくり学びながら診療できるという意味では、グループ診療も外せません。勤務する場所で異なる部分はありますが、医師3人による診療を基本に施設では医師の負担も少ないと思います。

田上先生

グループ診療だと、学会への出張ができたり、子どもの幼稚園に迎えに行くこともできたり、融通が利くのはありがたいです。

松 井

グループに所属する複数医師でのグループ診療は黎明期から変わりません。新しい診療所でも、地域のケアマネジャーさんが次第に理解してくれるようになってきて、グループ診療がかなり円滑に回るようになってますね。このあたりは、一緒に働いている診療所の元訪問看護師さんらがかなり頑張ってくださっているのも大きいです。

フィードバックを重視した研修体制

柏 﨑

研修への熱心さに触れても良いですか?HCFMの研修を知ったら、どんなドクターでも高く評価すると思うんです。患者背景を把握するための技術を学べますし、チームワークが良いので他職種について勉強するのにも素晴らしい環境です。

なにより、年齢関係なく学びを振り返る機会が用意されているのは大きいです。他院だとケースカンファレンスはありますが、HCFMの研修医は毎月、フェロー(上級医)だと四半期ごとに、学んだことを振り返る機会が設けられているのはここの特徴じゃないでしょうか。

和田先生

研修医から指導側へのフィードバックもあって、指導側も普段から気を付けなくては……と思わされことはよくあります。

田上先生

わたしは外来での様子をビデオ録画して振り返りに使うのは良い取り組みだと思いますね。もちろん患者さんの同意を得たものですが。ビデオを観ながら医師数人でレビューすると気付きが多く、案外、自分のことは自分自身が一番分かっていないのだと思わされます。過去に録画した先生方のビデオもあって、これは素晴らしい教育資産です。

和田先生

そうですね。元々、若い先生方が始めたという背景もあって、教育に対する情熱が並々ならないのは感じます。わたしはもうHCFMから離れましたが、ここで家庭医療を学べてよかったです。ここでの経験を生かして、“医療を極力しない訪問診療”を実践すべく今も奮闘しているところです。

松 井

退職した先生にそう言っていただけるのは、とても嬉しいことです。皆さん、HCFMとご縁の形はさまざまですが、家庭医療に取り組む姿勢は同じだと思っています。そういう仲間をひとりでも多く増やしていきたいと強く感じますね。
(2018年3月 取材当時)
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