インタビュー

菰田淳

栄町ファミリークリニック
専攻医1年目

三重大学医学部 卒業
みなと医療生活協同組合 協立総合病院 臨床研修
北海道家庭医療学センター 専門研修
・栄町ファミリークリニック 医師

何気ない一言に、「なぜ?」と思えるか。

家庭医の存在を知ったのは大学の授業がきっかけです。実習で家庭医の診療をまのあたりにして、患者さんに寄り添う医療というのはこういうことなんだと、自分が医者を志したときに思い描いた医師像と実際に働く姿が一致し、家庭医に強くひかれました。

現在は栄町ファミリークリニックに勤務しながら都市部診療所研修を行っています。診療は週9コマのうち3分の2は訪問診療、3分の1は外来診療です。講義は週1回あり、オンラインでの座学を通じて、どの研修施設にいても同じ質の学びを得られるのが当センターの特徴です。それに加えて、指導医による毎日の振り返りが自分にとっての大きな糧になっています。

先日、3歳のお子さんが風邪で受診しました。1日3回の薬を処方したところ、お母さんから「3回飲ませないといけませんか?」と聞かれました。病気の原因を取り除くのではなく、症状をやわらげるための薬なので「2回でもいいですよ」と答えましたが、その日の振り返りで指導医から「なぜお母さんは『3 回じゃなきゃダメか』と聞いたんだろうか。もう一度よく考えてみて」と言われました。
僕自身は子育ての経験がなくわからなかったのですが、お子さんを保育園に預けている場合、日中に薬を飲ませるには保育士に頼まないといけないんですね。つまり、「1日2回の薬」であれば、お母さんが保育士に連絡するという負担を軽減できたはずだし、1日3回飲ませられなかった場合の「きちんとケアしてあげられなかった」という後悔をさせずにすむわけです。
お母さんの何気ない一言に「なぜ?」という疑問を持てるかどうか。「なぜ?」から生まれる気づきが、患者さんの背景を知ることにつながります。こうした家庭医としてのスキルがまだ自分には足りないことを、振り返りを通して実感しました。

医学とは別の視点を、コメディカルの方から教わった。

訪問診療の経験を数多く積めるのも都市部診療所の特徴です。
訪問診療ではケアマネージャーをはじめ、看護師、ヘルパー、セラピスト、訪問歯科など、本当に多くの人が携わります。患者さんの生活を今後どうするのかを話し合う場に参加すると、患者さん自身の生活実態やご家族の状況など、コメディカルの方々の情報量に比べれば、自分に見えている医学的な視点は単にその一部に過ぎないことを痛感します。
病棟では医師が司令塔になって看護師やセラピストに指示を出すイメージがありますが、訪問診療の現場では医師も看護師もケアマネジャーも横一線でチームになって一人の患者さんに向き合います。多職種連携を、言葉だけではなく実践で学んでいるという手応えを感じています。

現在は訪問診療と外来診療を軸に学んでいますが、これからの4年間ではさまざまなセッティングを経験することになると思います。セッティングが変わっても一貫した教育が受けられるのは当センターの強みです。
一人の患者さんを診るということでも、診療所、ご自宅、急性期の病院では家庭医の役回りも異なるでしょう。そのなかで、たとえば病棟研修に行ったときには生活により近い訪問診療の現場で患者さんの背景を見てきた経験は必ず生きてくると思います。診療所から病院へ患者さんを「送る側」の立場、反対に「送られる側」の立場など、これからいろいろな視点を勉強できることを楽しみにしています。

※ 勤務先・学年は全て取材当時のものです(2020年)

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