インタビュー

田尻巧

北星ファミリークリニック
専攻医2年目

高知大学医学部 卒業
高知県立あき総合病院 臨床研修
北海道家庭医療学センター 専門研修
・更別村国民健康保険診療所 医師
・北星ファミリークリニック 医師

はじめての在宅看取り。

家庭医・総合診療医を志し、教育システムの充実や熱心な先生方との出会いから、縁もゆかりもない北海道にやって来た専攻医1年目、更別村国民健康保険診療所に赴任しました。臨床研修時代とは異なり、診療科を問わずさまざまな症例が持ち込まれることに当初は戸惑いましたが、指導医に日頃から丁寧な指導を受けるとともに、患者中心の医療や地域包括ケアといった家庭医・総合診療医としての基盤となる考え方もたくさん吸収しました。

印象深い症例を一つ挙げるとすれば、赴任3カ月目に受け持った訪問診療の患者さんです。その方は結果的に1カ月ほどの在宅療養の末に亡くなりますが、高齢の奥さまの介護の元でご主人が望んでいた「ご自宅での最期」を叶えるため、多職種で連携して診療に当たりました。僕自身これまで在宅での終末期ケアを経験したことがない中、医師としてチームに参加し、在宅看取りを迎えられたというのは非常に大きな経験であり、医師としての責任を強く感じさせられる症例となりました。デスカンファレンスという多職種での振り返りの場では、立場を越えた多面的な意見や思いを聞くことができ、家庭医・総合診療医としての学びを深める機会となりました。

亡くなって1カ月後にたまたま奥さまの外来診療を受け持った際、奥さまから「本当によかった、周りにも在宅看取りを勧めているんです」と聞き、これでよかったんだと少し自信が持てました。

専攻医2年目の今年度(2020年度)は都市部診療所研修ということで、旭川の北星ファミリークリニックで研修を受けています。旭川の場合は、更別に比べると患者さんご本人の生活やご家族の存在も見えづらく、多職種連携に関しても多くの方との複雑な調整のうえで意思決定する難しさを感じながら、これも家庭医・総合診療医として求められる能力なんだろうと思い、研修に臨んでいます。

ゆくゆくは背中を見せて後進を育てる医者に。

北海道家庭医療学センターでの研修を通して実感するのは、教育の根っこにしっかりとした学問的基盤があるということです。学問的基盤があるからこそ、単なる「やさしいお医者さん」では終わらないんだというのをさまざまなシーンで感じています。

僕が大学、研修医時代を過ごした高知県にも、本当に地域に必要な医療を提供し、患者さんから慕われている素晴らしい先生がたくさんいらっしゃいました。しかしそれが仮に、その先生の経験に裏打ちされ、他の医師には容易に提供できないような医療であったら、その先生が何かの事情でいなくなると地域の医療は途絶えてしまうかもしれません。
総合診療専門医が19番目の基本領域と認定されて以降も、思うほど広がっていかない要因の一つに、この学問的基盤がまだまだ全国的に定着していない点があるかもしれません。持続可能な地域医療を築いていくためには、知識や技術を標準化して、他の地域に適用し、後進につないでいくための学問的基盤が必要ではないかと感じています。

僕自身はこれからの研修のなかで当センターが培ってきた学問的基盤をしっかりと吸収し、ゆくゆくは他の地域、たとえば高知県へ持ち帰りたいと考えています。そうして家庭医・総合診療医として診療を行いながら、後進の学生や臨床研修医、専攻医を教えていけるような立場になれたらと、いまは考えています。

※ 勤務先・学年は全て取材当時のものです(2020年)

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