インタビュー

宮地純一郎

浅井東診療所 副所長・指導医

教育・学習支援センター センター長

05年大阪大学医学部医学科卒業後、市立伊東市民病院にて初期研修、公益社団法人地域医療振興協会にて後期研修、 北海道家庭医療学センターにてフェローシップ。英国エジンバラ大学にて医療人類学修士。家庭医療専門医・指導医。

いま一度、家庭医教育に向き合う。

[ 今江先生のインタビュー ]にもある通り、北海道家庭医療学センター(以下、HCFM)内に「医師キャリア支援・広報センター」「教育・学習支援センター」「学術・研究支援センター」の3つが立ち上がり、2021年4月から走り出しました。私自身は「教育・学習支援センター」を担当しますので、ここでは「教育・学習支援センター」ができた背景と、ミッションについてお話できればと思います。

まず設立背景を組織の文脈から述べると、HCFMが積み上げてきた「実績」と、その一方で明らかになってきた「課題」の両面があると考えています。
実績としては、20年以上にわたって家庭医療専門医の育成を実践するなかで、専門医になった先のフェローシップというプログラムを作り、それを踏まえた上で診療所の所長や指導医、研究者になる道筋を作ったことは、HCFMの教育における一つの大きな成果といえるでしょう。それと同時に、HCFMグループの各診療所の枠組みを越えて、HCFMに関わるさまざまなキャリアの方に対して医療職として育つために考える材料や機会を提供する、これを組織学習と呼んでいますが、そうした教育にも取り組んできました。
個々の実績を積み上げるなかで、じゃあ一体、教育の全体像はどうなっているのか。HCFM設立から25年の節目となる今、そこを見直す時期にさしかかっているのではないかと思います。一つは、専攻医、フェロー、その先という時間軸でつないだときに、そのつながりはどうなのか、あるいはつながりの太さはどうなのか。

また対象となる医師も、いろいろな人が出てきて、リーダーシップをガンガン発揮するタイプもいれば、現場の所長にならずに研究に携わりたいとか、後方支援的な立ち位置が好きであるとか、同じ医療者でも、医療への携わり方、医療との接点が多様になっているというのがここ十数年の流れとしてあります。

どちらかというとHCFMは、地域医療や診療所の中心的役割を担って、「やれるところまでやるぞ」と仕事に邁進するタイプの方にとっては適合しやすい環境ではあるけれども、仕事以外の部分も大事にしたい、子育てや介護を並行して行いたい、そういう方にとってフレンドリーな環境ではなかったかもしれないという反省があるんです。

そこをどう変えていくかは私たちにとってのチャレンジですし、そのような多様な働き方を支援する中での「専攻医の育成」「フェローの育成」「組織学習」を大きな絵で描き直すことがミッションであると考えています。

黒子としてHCFMの学びを深める。

私個人としては、少し違った角度から見ている部分もあります。
医療職の仕事は、個人としての「やりがい」や「楽しさ」がある一方で、「患者さんのため」「社会のため」という倫理観を伴う仕事でもあり、その二つがときに衝突することがあります。

学習でもそうだと思うんです。「やりがい」や「楽しさ」と「学ぶ」ということが合致するときもあれば、矛盾するときもある。それをどのように結びつけていくのか、これは「教育・学習支援センター」の大きなチャレンジでもあるんです。そうなった時に、受験勉強や国家試験立ち向かう時のような、膨大な知識を詰め込むことだけを学習と捉えるやり方だと息苦しさだけが積み重なっていきます。もちろん知識の補充は一定必要ですが、「学習とは座学や暗記だ」という狭い前提をまずは取り払った上で捉え直すことが「やりがい」や「楽しさ」と「学ぶ」ことをよりうまく結びつけるための一歩になると思います。

まずはその高い目標に向かって、どれだけ教育の中身をブラッシュアップするか、より深みのあるコンテンツをどう開発していくか、学びそのものが楽しいと感じられる仕組みを作ることがまずは手始めでしょう。

「教育・学習支援センター」そのものは、基本的に黒子的な存在だと思っています。
私自身はフェローシップの教育にずっと携わってきましたが、ほかにも専攻医の教育に詳しいメンバーがいる、組織学習に強いメンバーがいる。そこをつなげたり、一貫性を持たせたり、そうしたことに注力することで、プライマリ・ケアの最前線で働く医療職・福祉職・事務職が力を発揮できるための仕組みを作ることが「教育・学習支援センター」の役割だと思います。

その仕組み作りを進めるためには、現場ならではの知恵や指導医一人ひとりが持っているコンテンツが、HCFMグループの中には、あるいは時間を超えてHCFMに関わってきた人たちの間にたくさんあるわけですが、「教育・学習支援センター」はそれを学びのテーブルに載せる手助けをしたり、外から人を連れてきて後押しをしたり。そうすることによって、いろいろな人の知恵がテーブルに載ってHCFMの中を行き交うようになるのが理想ですね。

HCFMは家庭医療の実践と教育を作ることにこだわり抜いてきました。私たちはこの実践と学術をもう一度深め直すことで、家庭医療教育に対するHCFMの強みをもう一歩進められると考えています。それを踏まえて学習という観点で何ができるのか、「教育・学習支援センター」開設を機に向き合ってみたいと考えています。

※ 勤務先・学年は全て取材当時のものです(2021年)

PA GE TOP