インタビュー

竹田 瑛

更別村国民健康保険診療所
専攻医1年目

福島県福島市出身。2019年北海道大学医学部卒業。帯広厚生病院にて初期研修、2021年より北海道家庭医療学センターにて専門研修。趣味は温泉巡り。

地域に根ざした医師になりたい。

中学生の頃だったと思います。テレビドラマの影響で地域医療に興味を持ちました。
その後、福島で東日本大震災を経験しますが、行政と連携しながら避難所の環境整備や感染症対策などの指揮を執っている医師の姿をテレビで拝見し、こんなふうに診療以外にも目を向けられるような医師になりたいと思うようになりました。

北海道大学に進んだのは、もう単純に北海道のことが好きだったからです。自然豊かで夏も涼しい環境の中で暮らしてみたかったのと、とうもろこしがとにかく好きだったのと。特に十勝への憧れがあったので、初期研修は帯広厚生病院に決めました。

実は学生の頃は、核医学などの基礎研究にも興味を持っていました。臨床に進むか、研究に進むかで研修医1年目くらいまでずっと迷っていました。ですが、研修医として勤務するうちに臨床の奥深さに気づき、人と人との関係を作れるような仕事をしたいと思うようになりました。

決定的だったのは研修医2年目の夏に、ここ更別の診療所へ見学に来たことですね。
午前中いっぱい山田先生(指導医/HCFM副理事長/更別村国民健康保険診療所所長)の外来診療を見学し、午後は老人ホームの回診に同行しました。外来では、山田先生が限られた時間の中で病気のことだけではなく、生活面にも触れながら診療をされている姿が印象的でした。何気ないやりとりの中で、患者さんが山田先生のことを全面的に信頼していることが伝わり、こんな医師になりたいと強く思いました。
午後は福祉施設や行政との関わりを見させていただき、診療所の枠を越えた医療のあり方を知る機会になりました。

たった1日の見学でしたが、私の思い描いていた将来像にすごく近いと感じ、HCFMの専門研修コースに進むことにしたんです。

これが私のやりたかった医療。

専攻医として更別診療所に来て2カ月。まだ日は浅いですが、毎日のようにやりがいを感じています。
医者として患者さんのために何ができるのか。患者さん本人に話を聞いたり、ほかの先生や訪問看護師の方々と相談したり。その過程がすごく好きで、そういう部分は家庭医にマッチしているのかなと自分では思います。とはいえ、病気に対する知識も、家庭医としてのスキルもまだまだ足りないと日々痛感してばかりです。

たとえば外来で患者さんから「今、困っていることは何か」を聞いて薬を処方することはできるけれども、私の場合はそこまで。disease(生物医学的な疾患)には目がいくけれど、illness(もっと大きな枠組みでとらえた「病い」)については、カンファレンスや振り返りの中で気づかされることが多いんです。患者さんはこういう症状を訴えている、でも実は問題はもっと深い所にあるんじゃないか。患者さん本人やご家族が置かれた状況であったり、言葉には出さない不安であったり……。指導医の先生方の導きによって一歩引いてみたときに、もっと違う見え方や切り口があることを知って、はっとします。

山田先生は一つひとつの言葉が経験に基づいているのですごく説得力があります。黒岩先生(フェロー/更別村国民健康保険診療所副所長)や髙石先生(フェロー/中札内村立診療所所長)は「教科書のココが参考になるよ」といった具合に、若手の私たちにもできるところから丁寧に教えてくださるので、世代やキャリアが異なる先生方からこうして同時に教育を受けられるのは、とても勉強しやすい環境だと思います。
診療所内だけではなく、オンラインで勉強する機会もたくさん設けていただいて、さまざまな得意分野を持つ先生方から指導を受けられるのはありがたいことだと思います。

診療所研修では訪問診療も経験できます。現在は週に1回、更別村や中札内村など近隣の患者さんのご自宅などを訪れて診療しています。外来診療では短い時間の中で病気のこと、薬のことを話して終わってしまうことも多いですが、訪問診療では実際に患者さんの生活を目の当たりにすることができるので得られる情報量が格段に違います。患者さんが本当は何に困っているのか、患者さんが大切にしていることは何か、何を楽しみに暮らしているのか。それらは、患者さんにとってよりよい治療は何かを考える上で重要な要素となります。

たとえばある高齢の患者さんは、診療所でエコー検査をしたところ大腸がんを疑うような所見がありました。医学的にみればすぐにでもCT検査などをして診断をつけて転移がないかを調べるべきなので、「画像検査をしてみますか?」と伺いました。ですが患者さん本人は体調の悪い状態のまま都市部にある病院まで検査をしに行くことに強い不安を抱いていました。それで訪問のたびに患者さんや主介護者の娘さんと話し合いを重ね、当面のところ在宅のまま診療所でできる範囲の検査をしながら症状に対して治療をしていくことにしました。

生物医学的な視点からいえば「正解」ではないかもしれません。でも、病気を治すこと自体が目的ではありません。この患者さんにとって何が大事なのか。一日でも長く生きることなのか、苦痛のない状態が続くことなのか。患者さん一人ひとりのニーズをとらえて、双方納得のいく治療を展開することが大切なんだと今は考えています。

患者さんの生活に根ざした診療、地域に根ざした診療をやりたいと思い、医療の世界を志しました。診療所に来て、これが私のやりたかった医療なんだと実感しています。まだ、ほんの入口でしかなく、一人では何もできませんが、指導医の先生や先輩医師、多職種の方々にいろいろ教えていただきながら、診療所で役立つような技量を身につけたいと思います。

※ 勤務先・学年は全て取材当時のものです(2021年)

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