インタビュー

黒岩 冴己

更別村診療所 副所長
フェローシップコース修了生

神奈川県出身。横浜市立大学医学部卒業。2016年より北海道家庭医療学センターにて専門研修。2020年4月、更別村診療所副所長に就任(フェローシッププログラム)。2022年3月、フェローシップコース修了。

安全な環境で、家庭医として成長する。

出身は神奈川県横浜市です。県内の病院で初期研修を行いましたが、北海道家庭医療学センター(以下、HCFM)の教育に憧れてこちらに来ました。HCFMの学びは問いかけを重視します。指導者が学習者に多くの質問を投げかけ、学習者はそれに答える中で自ずから気づきを得ていくスタイルです。HCFMの指導医は学習者の意見を頭ごなしに否定したり、責め立てることはしません。私たちは常に安全な環境で、診療し、日々の振り返りを行い、指導医からフィードバックをもらいながら、家庭医として必要な知識、技術、態度を培っていきます。

私自身は専門研修の4年間で郡部診療所研修(更別村診療所)、都市部診療所研修(北星ファミリークリニック)、病棟研修(帯広協会病院)を経験し、臨床医として独り立ちするための自信をつけました。

専門研修コース修了後、一度は神奈川県に戻ることも考えましたが、家庭医として地域医療に貢献するためには診療だけでは不十分で、多職種のチームを作る能力をもっと磨く必要があると思い、教育や経営・マネージメントについても学べるフェローシップコースに進みました。

いまになって思えば、専門医を取った後のキャリアアップとしてフェローシップという明確なステップがあることは、HCFMのプログラムの大きな魅力の一つかもしれません。フェローシップでは山田康介先生(更別村診療所所長)のもとで指導を受けながら、家庭医療の深みをさらに知る充実した2年間を過ごしました。

 

「苦手な患者さん」に向き合える医師に。

プライマリ・ケアは、患者さんの価値観を引き出してはじめて適切な診療を提供できる領域です。相手の価値観にふれるときにとても大事なのは、自分がどういう価値観を持っているのかを知った上で診療に当たることです。これを把握しないまま診療すると、患者さんを拒絶してしまったり、逆に入れ込み過ぎてしまい、適切な診療の妨げになってしまいます。

HCFMのプログラムの中には「自分が苦手な患者さんはどんなタイプか?」を考えるワークがあります。たとえば、診療の現場で患者さんに対してイラッとしたとします。医者も人間ですから感情が揺さぶられることは当然あります。このときに感情にフタをせず、なぜイラッとしてしまったのかを分析して振り返りの場で共有します。すると、ある特定のタイプの患者さんに対して苦手意識を持っていることに気がつきます。私の場合は、攻撃的な患者さんに対して苦手意識を感じる傾向がありました。そのことを知った上で診療に当たると、イラッとしたまさにその瞬間に「自分はいまイライラしているぞ」とメタ認知でき、冷静になって感情の揺れをコントロールすることができます。

自分の価値観を知った上で相手の価値観にふれることの大切さは、頭では理解することができても、それを実践できるようになるにはトレーニングが必要です。HCFMのプログラムでは「揺さぶられた感情を認めて分析すること」を理論と実践の往復の中で経験します。その繰り返しの中で、診療をしながら自分自身の内面を振り返る能力をいつのまにか培うことができるのです。

ここで挙げた例は家庭医の学びの一側面に過ぎません。家庭医療の世界は学べば学ぶほど、その奥深さに圧倒されます。専門研修とフェローシップの計6年間ここで学びましたが、家庭医療についてまだまだ分かりきっていないことがよく分かりました。

春からは地元の神奈川県に戻り、在宅診療と外来診療を行うクリニックで家庭医として勤務します。外来診療のシステム作りや多職種連携のあり方など、北海道で学んだことを生かして地域に貢献できたらと考えています。HCFMからは離れますが、引き続きレポート指導などを通して専攻医の指導に携わらせてもらう予定です。教育機会を通して、私自身も家庭医としてもっと成長できたらと願っています。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)

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