インタビュー

中島 徹

向陽台ファミリークリニック
院長・指導医

北海道北見市出身。2009年札幌医科大学医学部卒業、11年より北海道家庭医療学センターにて後期研修、16年フェローシップコース修了。17年4月より現職。

地域の声に応え、新規開院。

千歳市の郊外にある向陽台地区は約1万人が暮らす住宅地で、初期の造成地エリアでは高齢化率が30~40%、逆に一番新しいエリアでは6%以下と、エリアごとの年齢構成に顕著な差があります。

私たちのクリニックができる前は内科系の診療所が一つあるだけで、交通の便も良くなく、千歳市にありながら医療空白地のような状況でした。そこで、誘致促進委員会が立ち上がり住民アンケートを行ったところ、「子どもから高齢者まで総合的に診られる医師がほしい」というニーズが高かったため、私たちの法人に声が掛かりました。また当時は、千歳市全体を見渡しても訪問診療に対応できる医療機関が少なかったこと、法人としても対応できる環境にあったことから、外来診療と訪問診療の二本立てでスタートすることになりました。

2017年4月の開院から6年目を迎えますが、外来診療・訪問診療ともに地域の多くの方にご利用いただいており、特に訪問診療は「千歳市内で訪問診療といったらココ」というようなありがたい評価もいただいております。こういうと、ここまで順風満帆に来たように思われるかもしれませんが、私自身にとっては決して平坦な道ではありませんでした。

 

相談しやすい院長になろう。

旭川市にある北星ファミリークリニックでフェローシッププログラムを修了した私は、都市部よりも医療が不足しているフィールドで地域に深く関わる医療をやっていきたいと考えていました。

そのときに向陽台ファミリークリニックの話が持ち上がり、草場先生(医療法人北海道家庭医療学センター理事長)から「どうだい?」と声をかけてもらいました。向陽台は、先ほどもお話しした通り、千歳市内ではあるけれど町の中心部からは離れた場所。また、妻の実家も近いので、家族のためにもまたとないチャンスだと思いました。

一つ心配だったのが、「院長」として赴任することでした。副院長の経験はあるけれど、院長は初めて。どちらかというと私は、人の心の機微を感じ取ったり、配慮や気配りが得意な方ではなく、人の上に立って引っ張っていく管理職タイプではないと考えていました。

不安は的中しました。医師2名、看護師など5名の体制でスタートしたのですが、最初こそよかったものの徐々に歯車が噛み合わなくなり、ついにはスタッフの離職を招いてしまいました。フェローシッププログラムでマネジメントについて学んでいたけれど、まだまだ実践の場において自力で問題解決する力が足りなかったことを痛感しました。

2年目は私の上に管理者として中川先生(栄町ファミリークリニック院長)が就いて組織の立て直しを図り、さらに3年目からは平野先生(現・国民健康保険上川医療センター院長)が副院長となってサポートしてくださり、私自身はかつての指導医二人に見守られる形で管理業務を学び直しました。

マネジメントは一般的に「ヒト」「モノ」「カネ」の管理が重要といわれますが、モノやカネと違ってヒトは感情が伴います。だから難しい。こちらが発信したメッセージを相手はどう受け取るか、スタッフ間の小さな歪みにいかに早く気づいて対応することができるか。そのためにまずは「私自身が相談しやすい院長になろうと決めました。どんなに自分が取り込み中だったとしても、スタッフから相談を持ちかけられたら聞く。

また逆に、ネガティブフィードバックともいわれますが、組織の運営上良くないことがあれば、言われる側にとって耳の痛い話であっても、それを放置せずにきちんと伝えて改善を図る。まだまだ合格点とは思っていませんが、組織が少しでも良い方向に進んでいくよう、今は心がけています。

 

「今、何ができるのか?」。
走りながら考えたコロナ対応。

2020年4月、クリニックの隣の高齢者向け住宅でクラスターが発生しました。当時は新型コロナウイルスの流行初期で、適切な対処方法がまだ確立されていない段階でした。保健所の管轄で入院調整を行うはずが、なかなか入院が進まず、混乱の中で利用者や職員が次々と感染するような事態に陥っていました。

これは、私たちが中に入って診る必要があると判断し、JMAT(日本医師会災害医療チーム)の一員に指定してもらった上で現場に入りました。

国立感染症研究所のクラスター対策班も支援に駆けつけ、ガウン・マスクの着脱方法の確認や、感染者と一般利用者の生活区域を分けるゾーニング指導を行いました。また、感染者を診察して重症度評価を行い、保健所と連携して入院につなげました。

一方で日常的なクリニックの診療が止まらないよう、知恵を絞りながら訪問・外来診療を続けました。万が一自分が感染し、患者さんやクリニック内に広めてしまえば本末転倒です。そうならないよう最大限注意し、クラスターの終息に努めました。

「今、自分たちに何ができるのか?」。刻一刻と移り変わる状況の中で、深く考え、瞬時に判断し、みんなで協力しながら乗り越えたこの経験は大きかったですね。その後、市内の介護・福祉施設向けにコロナの対処方法を冊子にまとめたり、事例発表を行うなど、実践で積み上げたノウハウを提供できたことで、多少なりとも地域のお役に立てたのではと考えております。

向陽台ファミリークリニックは、まだまだ発展途上です。クリニックだけではなく、隣接しているサ高住や門前薬局、クリニック建物内にある訪問看護ステーションや、他の地域の事業所との連携をいっそう深め、医療・福祉・介護のシナジー効果をさらに高めながら、この向陽台が「日本一暮らしやすい地域になるよう、医療面で力になれたらと願っています。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)

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