インタビュー

金井伸行

医療法人社団淀さんせん会
金井病院 理事長
金井伸行 医療法人社団淀さんせん会 金井病院 理事長

1999年京都大学医学部卒業。飯塚病院研修医、同総合診療科、洛和会音羽病院総合診療科、同救急救命センター(京都ER)を経て2007年5月より現職。2015年関西家庭医療学センター開設。同年より京都大学医学部臨床准教授にも任命されている。

草場理事長とともに学生時代から夢描いた「総合診療医が輝くフィールド」への思い。

京都の南の玄関口、伏見区淀地域。かつては淀城の城下町、淀川水運を担う港町として栄え、現在は京都競馬場でにぎわうエリアです。法人名にある「さんせん」は「三川」で、宇治川・桂川・木津川が合流し、淀川と名を変える地であることに由来します。当院は1977年に私の父・金井武雄がこの町に開院して以来、地域のニーズに耳を傾けながら住民の皆さんとともに歩み続けてきた、150床規模のコミュニティホスピタルです。

北海道家庭医療学センターの草場理事長と私は京都大学の同級生。在学中に「いつかは日本に総合診療を根付かせ、総合診療医・家庭医が輝くフィールドを作りたい」と語り合いました。当時、私は海外ドラマ「ER」を見て、どんな症状にも対応できる救急医の姿に衝撃を受け「医療の原点は救急である」という思いを抱くようになりました。卒業後はまず急性期医療を学ぼうと、年間約7000台の救急車を受け入れ当時から総合診療を実践していた飯塚病院(福岡県飯塚市)で研修を受けることを選びました。そして、草場先生は室蘭の日鋼記念病院に進まれ、やがて北海道家庭医療学センター(HCFM)を率いる立場になられたことは周知の通りです。私自身も「関西でも総合診療の拠点を作りたい」という思い、さらに「地域で活躍できる人材を地域医療の最前線で育てたい」という思いを抱き続け、2015年に草場先生と共同で関西家庭医療学センターを開設するに至りました。当院でも、都市部郊外の中小規模総合病院として、レジデント並びにフェローの育成プログラムの一翼を担わせていただくことになった次第です。

コミュニティホスピタルでの家庭医の活躍こそ、地域医療を救うポテンシャル。

医療法人社団淀さんせん会 金井病院 理事長 金井伸行

淀地域は開業医が少なく、家庭医のニーズの高いエリアです。当院では、私自身が病院総合医・ER型救急医であるほか、常勤医師の約8割が総合診療医・家庭医。全国でもめずらしいタイプの病院といえるでしょう。北海道家庭医療学センターや飯塚病院・頴田病院(福岡県飯塚市)をはじめとした一流の施設で研修・診療経験を積み上げた病院総合医と家庭医が集い、急性期から慢性期までのシームレスな医療を実践しています。主に京都大学や京都府立医科大学から派遣していただいている優秀な領域別専門医と力を合わせながら地域医療に貢献していくなかで、診療技術だけでなく、医療の多様性や価値観の多様性についても学びとっていただけることと思います。これまで「家庭医」という言葉には、診療所で活躍する医師のイメージが先行してきたように感じています。ですが、日本の全病院のうちで最も数が多いのは当院のような中小規模のコミュニティホスピタルです。地域全体に目を配り、住民の健康をトータルに診る、このような病院において、家庭医が活躍することこそが、病院の在り方を大きく変え、日本の地域医療を救うポテンシャルだと思います。


増加を続ける総合診療医のニーズ。活躍のフィールドもさらに多様に。

病院医療は院内多職種チームとの協働がカギ。総合診療医・家庭医は、外来、入院、救急、在宅といったさまざまなフィールドでチーム医療を実践しながら地域のプライマリ・ケアを担っています。健康診断、産業医活動、ウィメンズヘルス、学校医活動などのニーズも増加を続け、求められる役割が広がっていることを実感します。また当院では、地域住民向け健康イベントや地域行事にも積極的に参画しています。特に、今後の少子高齢化を考えるとき、働く世代を支援し、健康寿命を長くすることは必須で、勤労者の健康全般を守る家庭医の存在がより重要になることは自然な流れだと言えるでしょう。

HCFMの研修プログラムで、私が最も優れていると感じるのは、家庭医として働きながら、質の高い指導医による濃厚な指導を受けられる、という点です。特に、フェローシップでこれだけ内容の濃い学びと勤務を両立することは、一般的にはかなり難しいでしょう。また、専門医コースのレジデントも、診療所と中小病院と大規模総合病院、都市部と郡部、様々な医療機関をローテートしながらも、一貫した指導方針の下で経験を積めることはとても貴重だと思います。

医療法人社団淀さんせん会 金井病院 理事長 金井伸行

それぞれが目指す理想の姿に向かい、確固たる軸を持って前進を。

「総合診療医」「家庭医」と言っても、それぞれが目指す姿はさまざま。フィールドによって求められる役割も違います。自分の目指す医師像に到達するためにも、ぜひとも一本の綱を手繰っているような感覚で、軸をしっかりと持ち続けてください。時にはパイオニア精神を持って裾野を広げ、より多様なニーズに応えることにチャレンジするのもよいでしょう。一人ひとりが個性を生かしながら、ご自身の理想に向かって進んでいただければと願っています。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2019年)

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