インタビュー

杉原 伸明

北海道社会事業協会帯広病院
専門研修コース修了生

北海道帯広市出身。自治医科大学医学部卒業。2017年より帯広協会病院、寿都診療所、本輪西ファミリークリニック・若草ファミリークリニック、再び帯広協会病院にて専門研修(途中、利尻島国保中央病院に1年間赴任)。2022年3月専門研修コース修了。

あたりまえレベルの高い環境で学ぶ。

専門研修を終えた今、北海道家庭医療学センター(以下、HCFM)の強みは二つあると感じています。一つは「あたりまえのレベルが高い環境」に身を置けること。もう一つは「適度な負荷と安全な環境」の中で学べること。家庭医を育てるための環境づくりをとても大切にしているのがHCFMのプログラムです。

まず、「あたりまえレベル」についてですが、たとえばカルテ一つをとっても、HCFMの診療所では患者さんの既往歴、飲んでいる薬、職業、家族情報などをすべて把握して記載します。それってあたりまえのことと思うかもしれませんが、混雑時でも端折ったりせず、丁寧にプロファイル情報を確認するのは、できるようでできないことなんです。

実はこうした情報は2回目以降の診察で生きてくるし、プロファイル情報がきっかけで真のニーズにたどり着くことも珍しくありません。風邪症状を訴えて外来に来た患者さんによくよく話を聞いたら、子どものせきが続いていて心配で夜も眠れず、疲れがたまっていたりとか。直接の受診理由とは違う困りごとが、会話の中から明らかになることもあります。

極論をいえば、風邪で困っているのだから、すぐに薬を出してあげれば一定の満足度は得られるはずです。けれども、患者さんに対してより適切な医療へのアクセスを担保してあげること、家庭医としての知見を惜しまず提供すること、それをあたりまえのこととして「できる」「できない」の差は大きく、結果的に地域で提供する医療のレベルはまったく違ったものになります。

 

弱さを見せられる安全な環境で学ぶ。

もう一つの強みである「適度な負荷と安全な環境」ですが、これは専攻医2年目の寿都診療所での苦い経験を通して実感しました。

医師としての経験が浅い頃は、自分の医療レベルが低いことを自覚する一方で「医者たるもの弱みを見せたらダメだ」と妙にカタくなり、診察ではつい医療面ばかりフォーカスしてしまいがちです。患者さんから医学的なことを根掘り葉掘り聞き、絶対にレッドフラッグを見逃さないぞと躍起になるあまり、医学の外側にあるさまざまなことを取りこぼしてしまうのです。

自分自身がそうでした。診察の後、家庭医療に慣れたコメディカルスタッフから「先生、あれでは患者さんがへそを曲げちゃうよ」「あの患者さんは家庭の事情もあるし、違う解決方法を検討した方がいいんじゃないかな」といったフィードバックをもらうことがよくありました。

看護師は患者さんを全人的にみています。そして患者さんのためを思って意見をくれます。ところが当時の自分は医療面にフォーカスするばかりで、ものすごく視野が狭くなっていました。全人的な医療を実践したいと願って家庭医・総合診療医の門を叩いたのに、まったく空回りしていたことに気づかされました

寿都時代はこの繰り返し。自分の未熟さを痛感しました。でも、そんなときも指導医のフィードバックは丁寧でやさしいんですね。コメディカルスタッフの厳しい意見を受け止めながらワンクッション挟んでフィードバックしてくれたり、自分の医療技術が未熟なばかりに周りに迷惑をかけそうなときには裏できちんと根回ししてエラーが出るのを未然に防いだり。専攻医が安心してチャレンジできる安全な環境づくりに心を砕いてくださっていることが、今振り返ってよく分かりました。

地域の診療所はそれなりに負荷がかかります。たくさんの現場を経験することで医学的に太くなるのはもちろん、それと並行して家庭医ならではの診療、本当のニーズをとらえる力を指導医とのディスカッションを通して磨きます。HCFMの専門研修プログラムは、医療の外にも広がる総合診療の深みを感じられる4年間になるでしょう。

HCFMでの学びを通じて、以前から抱いていた「総合診療医を目指す人を増やしたい」という思いは確信に変わりました。そのため、もっと体系的に教育の理論を学んで指導力を身につけ、後進を育てられる医師になりたいと考えています。

この春からは自治医大のローテーションの兼ね合いで北海道立江差病院に赴任します。HCFMの施設ではありませんが、義務年限という特殊な状況を踏まえて、赴任中に、HCFMの指導医養成のカリキュラムであるフェローシップを専用の形に調整して受けられることになりました。

そういったかたちでの研修はHCFMとしても初の試みなので、指導体制の構築など手探りの部分もありますが、自分自身の経験を通して一つの道を拓くことができたら、それもいいのかなと今は思います。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)

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