インタビュー

平野 嘉信

国民健康保険上川医療センター
院長・指導医

福井県出身。福井医科大学(現福井大学)医学部卒業。北海道家庭医療学センターにて後期研修、フェローシップコース修了。寿都診療所、上川医療センター、向陽台ファミリークリニックを経て、2021年4月上川医療センター院長就任。

家庭医として多彩な経験が積めるフィールド。

上川医療センターの平野です。2016年から3年間副院長として勤務し、向陽台ファミリークリニックを挟んで、2021年4月にこちらの院長に赴任しました。

ここ上川医療センターは町内唯一の有床診療所として、外来・入院・訪問・救急に対応しています。上川町の高齢化率は40%を超え、外来・入院ともにご高齢の患者さんが多く、内科、整形外科、皮膚科などのさまざまな疾患、あるいはそれらが併存した状態で来院されます。
また、町内に温泉地があり、新型コロナウイルスの感染拡大以降は落ち着いていますが、以前は「急病になった」「温泉で転んだ」という患者さんが頻繁に救急搬送されてきました。

こうしたバラエティに富んだセッティングに加え、当院に併設している介護医療院があり、医学的管理を通じて、介護・福祉とのつながりも経験することができます。この環境の中で家庭医の基礎を学びながら、その上で私たちとしてはできるだけ専攻医一人ひとりのニーズに応えられるような学びの機会を提供できたらと考えています。

 

地域課題の解決に、ど真ん中で取り組む。

上川医療センターのミッションは、上川の住民が上川で最後まで安心して暮らせる医療の提供です。ただし、医療の力だけではそれを実現することはできません。

たとえば、上川では今、介護度が比較的低い方へのサポートが課題となっています。認知症はない、一方でフレイルが進行している。けれどもヘルパーなどの人材に限りがあるため、そうした方々が安心して家で過ごすことができない。結果、上川では暮らせないとなり、子どものいる旭川や札幌に引っ越したり、施設に入るというケースが増えています。では、どうしたら解決できるのか。その答えがなかなか見つからなかったのですが、先日、「これは!」と思えることがありました。

上川では保健・医療・福祉に携わるメンバーが定期的に集まって地域ケア会議を行っています。私も会議に参加していますが、その中でこの話題になり社会福祉協議会の方から「ボランティアにお願いできないか」という案が出ました。

その視点はなかったので、なるほどと膝を打ちました。自分たちが正規のサービスにこだわりすぎていたことに気がついたんです。支援が行き届かないのは、ヒトがいないから、モノがないから、カネがないから。つまり、ないものねだりをしていたんですね。

最近たまたま読んだ『コミュニティデザイン』(著/山崎亮)という本の中に「モノをつくるのをやめると、人が見えてきた」というフレーズがあって、たしかにそうかもしれないと思いました。

今は〈ない〉正規のサービスにこだわるのではなく、既に〈ある〉リソースからできることを考える。あるもの探しですね。そういう中で、もしかするとボランティアは解決の大きな糸口になるかもしれない。まだ調査・構想の段階ではありますが、うまく支援の形づくりができたらと考えているところです。

そこに専攻医も入ってもらい、地域づくりのプロセスを体験してもらうのもいいでしょう。上川で起きている問題は上川だけの問題ではありません。超高齢社会の日本では、どの地域でも起こりうる問題です。こうしたリアルな課題解決に取り組むことは、家庭医として貴重な経験になるはずです。

 

日々進化する組織の中で。

北海道家庭医療学センターは、家庭医・総合診療医の育成において老舗といわれています。私はそこに、「老舗だけれども日々進化する組織」という言葉を付け加えたいと思います。時代の要請に応じて、地域の実情に対して、北海道家庭医療学センターの各サイトではトライ&エラーを繰り返しながら、診療や経営、教育のあり方をブラッシュアップしています。

ぜひこの進化する環境に身を置き、これからの地域医療を担う家庭医を目指してもらえたら幸いです。

町医者だった祖父に憧れて、医学の世界に進みました。家庭医がまだ十分に認知されていなかった時代に家庭医を志し、見学で訪れた北海道家庭医療学センターの熱すぎる先輩方の姿に胸を打たれて、ここに飛び込みました。
医者になって18年がたち、来年には50歳を迎えます。

私自身に課しているミッションは、子どもの受診率向上です。上川医療センターは他サイトと比較しても子どもの受診率が低い。都市(旭川)に近いという地域特有の事情もありますが、やはり子どもから高齢者まであらゆる年代、性別を問わず、すべての健康問題に対して最初にアクセスする医療機関でありたい。そうして、誰もが安心して暮らせる地域になるよう、残りの医師人生をかけて貢献したいと今は願っています。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2022年)

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