家庭医療・総合診療再研修コース

『多様なニーズ・セッティングでの研修』

参加メンバー

草島 邦夫/栄町ファミリークリニック医師、外科専門医、麻酔科標榜医、麻酔科認定医、プライマリ・ケア認定医、指導医
鳥山 敬祐/栄町ファミリークリニック医師、認定内科医、神経内科専門医
中川 貴史/医療法人北海道家庭医療学センター常務理事、栄町ファミリークリニック院長、指導医
※2021年12⽉時点の所属

草島 邦夫

2009年北海道大学医学部卒業。2020年6月、北海道家庭医療学センター入職。外科専門医、麻酔科標榜医、麻酔科認定医、プライマリ・ケア認定医・指導医。

社会課題にメスを入れられる医療とは?

もともと私は急性期病院の集中治療室で、麻酔科医として全身管理を行っていました。患者さんとの関わりはあくまで病院の中だけ。退院した後の患者さんの健康を考えれば、本当は患者さんのご家族を含め、医療以外の部分にまで介入する必要があることはわかっていました。でも、病院を一歩出てしまえば私たちのテリトリーではありません。そこにもどかしさを感じていました。

閉じられた医療機関の中だけではなく、社会と医療を行き来するような医師のありようはないものか。さまざまな社会課題を医療側から解決できないか。その答えを求めて勤務していた病院を退職し、京都大学の公衆衛生大学院で、社会医学について学ぶことを決めました。

入学を半年後に控えていたある日、大学の先輩である中川貴史先生からたまたま声を掛けてもらい、非常勤で栄町ファミリークリニックの訪問診療に携わることになりました。訪問診療は、それまで私が急性期病院で経験してきた医療とはまったく異なるものでした。時間をかけて患者さんの生活を理解し、ご家族と関わりを持ちながら医療以外の部分にも目を配る。こういう世界もあるんだと興味を持ちました。

2018年4月から京都大学で学びますが、2年目の冬に新型コロナウイルス感染症の流行が始まりました。感染拡大防止の観点から大学院にも行けず、非常勤医師としての仕事もできず。中川先生に相談したところ、「だったらうちに戻っておいで」と。それで大学院を中退し、こちらに入職しました。もともとは4年かけて社会と医療の関わりを学んでから実践に入ろうと思っていたんですが、それが2年早まったわけですね。

入職して1年半が経ちます。家庭医は社会と医療との行き来ができる、それが私にとって大きな魅力です。それを実感したのがコロナでした。

2021年4月から始まった第4波では入院病床が逼迫し、一部医療崩壊とまでいわれる状態になりました。私たちは第4波と第5波、それぞれの期間中に入院待機中のコロナ患者さんに対する往診とオンライン診療を行いました。

入院待機中の患者さんが抱える問題はコロナだけではありません。入院したいのにできないことへの不安もあります。自宅療養中に脱水をきたし、全身状態の良くない方もいました。おそらく内科だけでは対応できないし、精神科だけでも難しいでしょう。家庭医だから内科疾患を診て、かつ社会から孤立した不安にも対応できる。保健所と連携して入院調整もできる。まさに家庭医がフィットしたケースでした。

また夏には、すすきの観光協会、札幌市、栄町ファミリークリニックの三者合同事業で、すすきのでの職域接種を行いました。接種回数は8週間でのべ2万7000回。多職種連携を得意とする家庭医だからこそ、院外のリソースとも違和感なく連携して取り組めたはずです。こうして社会と医療の行き来が実践できることを経験しました。

現状に物足りなさを感じているなら、
ぜひ家庭医療の世界へ!

家庭医療を実践する中で、家庭医療の概念や共通言語を身につけたいと考え、2021年8月に日本プライマリ・ケア連合学会が認定するプライマリ・ケア認定医を取得しました。次年度(2022年度)からはフェローシッププログラムに進み、体系的に学びを深め、専攻医の教育や臨床研究にも深く関わりたいと考えています。

家庭医をずっと専攻してきた生え抜きの医師だけではなく、急性期病院での経験がある私や、ビジネスの視点を持つ鳥山先生のようにアウトサイダーが北海道家庭医療学センターに加わることで、言葉を選ばずにいえば、ハイブリッドな組織になって、幅も広がり、ちょっとした変化に対応する強さも備わると自負しています。

さまざまなバックグラウンドを持つ医師が家庭医療の領域に入ることで、家庭医療そのものが社会のニーズに対してさらにフィットしやすくなるはずです。

私自身はコロナによって家庭医療のポテンシャルを確信しました。社会の変化が早い時代こそ、家庭医療が活躍できる場面はますます増えるでしょうし、社会課題に敏感で感度の高い医師は早晩それに気付くはずです。

単一診療科で将来の悩みを感じていたり、現行の縦割りの医療制度に物足りなさを感じ、社会と医療の架け橋になりたいチャレンジ精神に溢れた方には、ぜひ一度、家庭医療の扉をノックしてみることをおすすめします。その意欲をきっと満たすことができるし、知らなかった世界に出合えるはずです。

 

鳥山 敬祐

2011年九州大学医学部卒業。神経内科専門医として病院勤務後、外資系コンサルティング会社を経て2021年9月入職。認定内科医、神経内科専門医

コンサルの経験を医療界に還元したい。

こちらに来る前は、外資系コンサルティングファームに1年半ほど在籍していました。

コンサルタントファームでは、主にヘルスケア関連企業の中期経営計画策定に携わったり、製品の販売戦略を練るといった経営のサポートを行いました。その後コンサルで身につけた技術、知識、視点をより現場に近い場で活用し医療に還元したいと思うようになり、臨床の現場に戻ることにしました。

臨床に戻るにあたって神経内科ではなく、家庭医を選んだ理由としては、家庭医の多面性に魅力を感じたことです。診療科を横断してトータルで患者さんを診ることであったり、医療の枠組みを越えて社会サービスを活用しながら問題解決を図ることであったり。家庭医の言葉でいえば「包括性」ということになるのでしょうか。

北海道家庭医療学センターは以前から名前を聞いて知っていました。ホームページに「再研修コース」を明確に掲げていたことも応募のきっかけになりました。見学で訪れた際に、更別村国民健康保険診療所の山田康介先生が地域で理想的な家庭医療を実践されているのを目の当たりにし、栄町ファミリークリニックの中川貴史先生からお話を伺う中で、チームビルディングや経営に対する洞察力に感銘を受け、「ここで学ぼう」と心が決まりました。外部から入って活躍している草島先生の存在も心強かったですね。

患者さん一人ひとりのコンサルタントに。

入職してまだ日は浅いですが、家庭医の面白さを日々実感しています。

診療一つとっても、家庭医は徹底的にやります。患者さんとの会話の中に潜んでいるちょっとした情報を絶対に見逃しません。診察の中で気になった発言があれば、振り返りの場で「○○さんはなぜこう発言をしたのか?」を1時間ぐらいみんなで議論するんです。疾患だけではなく、感情面にも深く共有していく。そこが家庭医のプロフェッショナリズムだし、自分はこういう医療をやりたかったんだと改めて感じています。

教育環境も非常に充実しています。先ほども触れましたが夕方のカンファレンスでは院長を含むメンバー全員で徹底的に議論が行われますし、診療前の朝の時間は専攻医の学習時間に充てられています。私も参加させてもらっていますが、とても勉強になります。オンラインの勉強会も頻繁に行われ、数多くの若い専攻医の先生方から刺激をもらっています。

得る部分とは逆に私自身の経験が組織に還元できる部分もあります。神経内科の疾患を診察する場合はもちろんですが、コンサルで培ったものの考え方やプロジェクトの組み立て方は患者さんとの関わりの中でも活用できるので、専攻医の先生にどんどん伝えていけたらと思っています。

私自身のこれからの目標としては、草島先生と同様、まずはプライマリ・ケア認定医の取得を目指し、その後はフェローシッププログラムに進みたいと考えています。構図としては草島先生と同じですが、そこからは別の「味」を出していきたいですね。私はマネジメントや経営の面で法人の成長に貢献できるような立場になることが目標です。

家庭医の仕事は、ある意味で患者さんにとってのコンサルだと考えています。何でも気軽に相談に乗り、必要があれば別の専門医や社会インフラにつなぐ。いわばハブの役割です。民間企業の目的が利益の追求でコンサルがそれを助ける仕事だとすれば、私たち医師の使命は患者さん一人ひとりの「人生をより良くする」ことに尽きます。必ずしも病気を治すことが目的ではなかったり、場合によっては治療とは違う選択を行う場合もある。トータルで診るのが家庭医なんだと、いま改めて思います。

国の方針として地域包括ケアシステムの構築が推し進められる中で、家庭医の需要は今後ますます高まるでしょう。私たちが携わっている訪問診療は確実に伸びていきます。家庭医療のビジネスチャンスは大いにあります。ビジネスに興味のある医師にとっても、絶対におすすめの領域です。

 

中川 貴史

医療法人北海道家庭医療学センター常務理事、栄町ファミリークリニック院長、指導医。

家庭医療・総合診療再研修コースとは?

たとえば専門研修コースなら「専門医を取得する」、フェローシップコースなら私たち法人が認定する「修了資格を取る」といったようにアウトカムが明確です。受けるレクチャーや課される提出物など、カリキュラムもあらかじめ設定されています。
これに対して「再研修コース」は、カリキュラムやアウトカムがカッチリと決められているわけではありません。そもそも当法人に来てくれる医師は、キャリアもここに来る目的も異なるわけですから、一人ひとりのニーズに応じたオーダーメイドの教育を提供するのが再研修コースの特徴です。

草島先生や鳥山先生のように、家庭医としての知識・技術を身につけるだけでなく、将来的には北海道家庭医療学センターの中で責任を持った立場で仕事をしたいと考える場合には、ゴールから逆算して、まずは「プライマリ・ケア認定医を取ろう」、認定医を取ったら「フェローシップコースに進んではどうか?」というように、一人ひとりがそれまでに積んできた経験と志向するところを確認しながらキャリアプランを立てていきます。

もし2年後に開業を控えていて、それまでの間に家庭医の知識・技術を身につけたいという場合であれば、「どういうスタイルで開業するのか?」「外来診療中心なのか?」「訪問診療中心なのか?」「都市部なのか?」「僻地なのか?」と、開業のイメージを明確にした上で、「だったら2年間はこのサイト(病院/診療所)で、こういう課題に取り組んでみたら?」と個別に提案することができるでしょう。

私たちがそうした多様なニーズに応えられるのも、都市部診療所・郡部診療所・郊外型診療所・病院(総合診療科)といった多様なセッティングを自前で展開しているからに他なりません。どのサイトでも、HCFMの教育で育った指導医がいて、そのサイト長のもと、診療とディスカッションを繰り返す中で多くの学びが得られることでしょう。

Win-Winの関係で、学びながら貢献する。

医師としての経験を積んでからここに来る方にとっては、ただ受動的に学ぶだけでは物足りないはず。その経験を十分に発揮できるフィールドを提供することも私たちの務めです。たとえば草島先生は全身管理が専門なので人工呼吸器を使用する患者さんがいれば意見を求めたり、鳥山先生には神経内科の疾患の患者さんの診察をお願いしたり。実際、専門的な視点が加わると診察のクオリティが違うんですね。それを在職する私たちも教えてもらうことで、専攻医はもちろん、組織全体としても診療の質を高めることにつながります。それは1年、2年の「期間限定」で来てもらう場合も同様です。しっかりと組織にフィットし、学びながらそれぞれの強みを提供していただけるよう、Win-Winの形を築いていくことがお互いにとって重要です。

ただ、組織の中で医師の居場所をつくるのは組織側のタスクである一方、ご自身の努力にかかっている部分もあります。草島先生や鳥山先生には「とにかくまずは臨床力をつけよう。それを身につけることなく組織に貢献したいと思っても空回りしてしまうだけ。家庭医として一人前の臨床力が備わってはじめてメンバーから信頼してもらえるのだから」と、厳しいことも言わせてもらっています。外から入職する医師も、受け入れるメンバーもお互いに安心感を持って仕事に向き合うこと。気持ちの問題なので見えづらい部分ではありますが、とても大事なことだと考えています。

卒後10年、15年と年数を重ねるに従って、プライベートも成熟してくるでしょう。お子さんの進学を見据えて引っ越し先を検討したり、家づくりを考える時期にさしかかっているかもしれません。

勤務先の希望やキャリアプランについても、数年先のご家族の状況を見越し、できる限り仕事に専念できるよう環境づくりを一緒に構築できればと思います。家庭医を学んでみたい方は、ぜひ一度、気軽にご相談ください。

※勤務先・学年は全て取材当時のものです(2021年)

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