HCFM 座談会

『 家庭医療を提供し続ける取り組み 』

医師が疲弊せずに家庭医療を提供し続ける
そのための仕組みとは―
“草分け”が語る想いと取り組み

家庭医療の草分けとして、医学生・研修医に人気の北海道家庭医療学センター。1996年の開設後、北海道を中心に全10施設にまで展開してきました。これまで、地域から愛され、医師が疲弊せず、経営的にも持続可能なモデルを構築してきたHCFM。その背景はなにか、経営陣に話を聞きました。

参加メンバー

草場鉄周/医療法⼈北海道家庭医療学センター理事長、指導医
中川貴史/医療法⼈北海道家庭医療学センター常務理事、栄町ファミリークリニック院⻑、指導医
高橋宏昌/医療法⼈北海道家庭医療学センター事務局長
松井善典/浅井東診療所所⻑、指導医
※2018年3月時点の所属

なぜ今、家庭医療なのか

―家庭医療について簡単に教えてください。

草 場

家庭医療は「地域密着型のプライマリ・ケア」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。患者さんが何かあったとき、最初に気軽にかかれる医療機関です。総合診療だと病院を含み、診断の要素も強く含まれてきて、重なる部分もありながら違いのある領域といえます。

―最近、注目度が高まっているように感じます。

中 川

たしかに、わたしたちが家庭医療を志した頃は「異端児」のような扱いでしたよね。最近は家庭医とそれをめざす学生が増え、状況は少しずつ変わってきているように思います。

草 場

さまざまな場やメディアで取り上げられるようにもなってきました。以前は認知すらされずに“スルーされる時代”でしたが、今は反応を得られるようになってきました。家庭医療を学ぶ環境も変わってきていて、ここ10~20年ほどで少しずつ良くなってきていますよ。

―事務局長の高橋宏昌さんは、経営コンサルタントとして夕張医療センター(※)の立ち上げに携わるなど、地域医療の経営に明るいですね。
家庭医療をどのように見ていますか。

※夕張市が2007年、財政破綻に伴い、市内唯一の総合病院をクリニックに縮小して夕張医療センターに改称した

高 橋

医業経営が厳しいとされる昨今ですが、HCFMはビジネスモデルとしても理に適っていると感じています。なぜなら、医師を地域で育てながら地域医療に貢献し、雇用を確保し、対価を得ている。医療と地域がウィン・ウィンで成立しています。

地方、特に郡部のような田舎だと、医療機関を単独で成り立たせることが難しいです。そこにHCFMから医師を送るのですが、その医師は地域密着のプライマリ・ケアに携わりたい方だからモチベーションが高い。医師自らが喜んで地方に行き、地域の中で学んでもらう―これこそ、持続可能性のあるビジネスモデルだと感じています。

―地域密着ということで、貴センターは地域や自治体と良好な関係を築いている印象です。

草 場

わたし達はあくまでも、地域に何が必要かという視点に立脚します。地域で求められていることを勉強し、求められている設備を入れる。地域ニーズに応えることを喜ぶメンタリティーで育つから、地域に溶け込めて、うまくいっているのだと思います。

松 井

わたしたちのクリニックが郡部を中心に置かれていることも一因ではないでしょうか。都市部と違い、少人数のケアマネ、1つの訪問看護ステーションなど、地域のプレーヤーと顔が見える関係を築きやすいんです。経験の浅い家庭医にとっても活動しやすいし、シンプルな家庭医療の姿を知れて学びも多い。

草 場

これは強く思うのですが、地域医療は「地域を支えるために“仕方なく”やるもの」ではないんです。中川先生も寿都町立寿都診療所(編中:人口約3,000人の町にあり、札幌市から車で約3時間)に10年以上いましたが、医師として仕事に満足してないとそこまで長居はできませんよ。地域に行くのは義務や報酬を得るためではありません。地域に行けば得られるものがあって楽しいんだということを、組織として表現していきたいですね。

家庭医療“学”センターを名乗る理由

―法人名が印象的なのですが、どのような考えで付けたのでしょうか。

草 場

家庭医療“学”センターと名乗る理由は、家庭医療学の様々な理論を基盤として、一貫した診療姿勢、患者・地域への向き合い方をめざしているからです。家庭医療は残念ながら、いろんな科の寄せ集めという見られ方もします。そして、それを真正面から否定するほどのエビデンスがまだ不足しています。

翻って、海外のプライマリ・ケア先進国では、プライマリ・ケア独自の診療指針を出しており、各科専門医とは異なる視点からアプローチしているんですね。ならば、日本ではわたしたちが研究して家庭医療の専門性を高めていこうと。そうして、家庭医療の専門性を追求しながら学び、次の代へと伝えていくことを組織のミッションにしています。

―感覚や自己流ではない、一貫した家庭医療の提供をめざすということですね。
現場ではどのように取り組まれているのでしょうか。

松 井

現場では、グループ診療が大事な役割を担っています。主治医制と違って、患者さんがグループのどの医師にかかっても、ほぼ同じような診療を受けてもらえるよう工夫し、仕組みも作ってきました。患者さんを診る医師が代わっても、可能な限り医師の発言が矛盾しないよう注意や指導を行って、これまでと違う薬が出されてしまうといったことが無いように努力しています。

中 川

もう一つ、「患者中心の医療の方法」という原則を全員で共有していることも要になっています。症状を生物医学的にとらえるだけでなく、症状に対する患者さんの感情や解釈、患者さんを取り巻く環境などを加味して考えます。同じ腰痛でも、患者さんが求めるものは検査だったり、薬だったり、近くのリハ病院への紹介状だったり……さまざまです。

環境面も、家族介護による腰痛かもしれない。そしたら介護負担を減らすよう介護サービスを案内する。そうすると、患者さんとの関係も深まる―こうしたアプローチを理論立てて、全員ができるようにしています。

―皆さん、若い頃から家庭医療にどっぷりと浸かってきて、並々ならぬ想いをお持ちです。
貴センターには、そういう医師が求められているのでしょうか。

草 場

そんなことはありません。もちろんHCFMでは、各地のリーダーとなる家庭医を育成しようとしています。

一方で、家庭医療のエッセンスを身につけて地域に貢献したい先生が、たとえば数年だけ勉強することも、社会のニーズに適っています。一分野でスキルを磨いてきたベテラン医師が家庭医療の視点を身につけて地域に貢献する―社会にとっても他の家庭医にとっても心強いことでしょう。

ただ、卒後数十年が経つ先生方は、研修医時代に家庭医療を学ぶ場がほぼありませんでした。だからこそHCFMとしては、科や経験を問わず、キャリアの途中で家庭医療を学べる枠組もどんどん提供していこうとしています。

都市部でも地方でも求められる家庭医療

―家庭医療の今後について教えてください。

草 場

いま、都市部でも地方でも家庭医療が求められる時代がきました。これまでお話したような視点を持つ医師を求める声は、地方講演をしていると住民の方々からよく聞きますし、そういう医師と働きたいと願うコメディカルや介護職の方々も多い。良質な家庭医へのニーズはますます強まっていくでしょうが、実際は国内にはまだまだ少ないのが現状なんです。

これは不幸な状況で、わたしたちなりになんとか状況打開に貢献していきたい。そのために、地域で求められることを自然に、しかも楽しくやれる医師を育てていきたいですね。

高 橋

家庭医療は今後の医療に欠かせない存在なのに、医師・患者さんの双方からまだまだ知られていませんよね。これからの日本を考えれば、もっとメジャーなものにしていかねばなりません。今後もHCFMの提供エリアを増やしながら、家庭医療の地位向上にも貢献していきたいと強く思います。

草 場

そうですね。経営が成り立つことは大事です。決して歯を食いしばりながらやるのでなく、経営的に成立するし、医師もやりがいがある。そういう組織づくりを進めていきましょう。
(2018年3月)
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